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DTI Cloud Mail 障害に見るあれこれ

20100906_dti.gifDTI(Dream Train Internet)と言えば、古くからInternetを利用している人々の間ではIIJに次ぐ接続品質を誇るISP(インターネット接続事業者)として名が通っていたのではないだろうか。元は1990年代の日本におけるインターネット黎明期からある老舗プロバイダである。慶応の学生を中心としたベンチャーとして立ち上がり、後には三菱電機傘下、電力系傘下と移り数年前に別の競合他社を併合、そしてフリービットに買われて現在に至る大手でもある。このフリービットも元をただせばDTI中の人がドロップアウトして起こした会社であり、一見、元の鞘に収まったかのように見えるが実は根本的な部分でかなりの違いがあるのが実情。嘗て「I'm DTI」とまで言われたプロバイダに何が起きていたのだろうか。
まだ20世紀だったころ、日本のインターネットはダイヤルアップというモデムにより電話で接続するやり方が主流だった。当然、NTTなどの電話回線を使い電話をかけることになるのだが、プロバイダによっては設備キャパシティを超える契約会員数を抱えるのが普通な時代において唯一DTIは会員数を限定し、快適な接続環境を実現していたのである。ユーザをサブドメインごとに登録し、設備キャパに応じて募集をかける。設定数に達したら募集を締め切り、新たな設備が整うまでは会員登録すら出来ない、という徹底した品質追求企業であった。それゆえ、NTTの始めたINSおよびテレホとの相乗効果による爆発的なネットユーザの増加においてもビジーの全く発生しない快適な環境が適価で実現していた。

これらはDTIの創立期から脈々と続く「安定し確実な環境を提供する」という企業ポリシーに基づくものであり、経営陣や内部の技術陣に対してはインフラの一部を担う者としてへの評価としては最大のものが与えられていた。これが三菱電機傘下から電力系(KDDI)傘下になった辺りから歯車がおかしくなりはじめた。嘗てのDTI(三菱電機傘下まで)は他のプロバイダが手を出している見た目の華やかなサービス(ポータルを始めとするコンテンツ事業)にはほとんど踏み外すことなくひたすら品質を確保し続けたものの、次第に迷走を始めることとなる。

そして致命傷となるのがフリービット(FB)への吸収であった。実はこのFB、個人的にはあまり評価がよろしくない。FBの立ち上がり初期から、無線を利用した接続など先進的な取り組みはあるものの、内部的にはスパムメール送信の温床となり、安全性といった面でかなりルーズというか無法地帯化してる兆候が見受けられたのがその理由。DTIにおけるユーザ視点での快適性とは正反対の性格とも言えるFBに買われてしまったのはユーザにとって不運としか言いようがない。

結果として旧DTI時代から脈々と続いたポリシーを支えてきた技術者達が大量に辞めてしまったのだ。恐らくはFB経営陣からの利益最優先というポリシーと相容れないことが原因であるのは明らかであろう。そして運命の9月3日がやって来たのである。

話は前後するが、FB時代になったDTIはメールサーバの環境を今流行りのCloud(クラウド)環境に移行している真っ最中であった。そんな中でのサービス停止事故である。旧DTI時代には想像も出来ない(実際、定期メンテナンス以外で停止の記憶は無い)事故である。過去14年、このような事故はDTIでは経験したことがない。10数年をかけて築いてきたDTIへの信頼を一夜にしてゼロにしてしまったこの事件、他のプロバイダに与える影響も大きいのではないだろうか。

そもそもクラウドとは何ぞや?となるのだが、要求される負荷、リソースに対し無限にリソースを増減できる様にしたスケーラブルなサーバ群の構成と言うことが出来そうだ。しかしクリティカルな運用においてはまだ歴史が浅く、実はこれといった正解が用意されている訳でもないのが実情であろう。世界中を見ても実際に合格レベルで運用できているのはGoogleぐらいのものではないだろうか。他はまだ試行錯誤、手探りの状態と見て良い。上手くいっているように見えるGoogleでさえ、常に試行錯誤を繰り返し、サービスにおいてはβをはじめ徹底的に数値を拾って検証し、それでもたまには失敗を犯している。

その程度の代物に机上理論のみでいきなり本番を載せてしまうというのは呆れるばかりである。新しく始める斬新なサービスだというのならまだ理解は得られても、インターネット創生期からある成熟したシステムをそこへ移すのは掛けを通り越して無謀の域に達すると思うのだ。個人的には、今一度旧来のDTIが如何にして信頼を勝ち得てきたかその軌跡を噛みしめ、インフラを支える役割について理解し基本に立ち返って欲しいと願うばかりである。

最後に一点。DTIのトップに障害に関する些細な報告が載ったのは最初の事故が発生してから丸2日経ってからである。この間、些細な経過はほとんど報告されず、気付いた人が見に行く程度の公式掲示板において責任者が曖昧な説明を流す程度であった。あまりにもユーザ不在の対応に怒りを露わにする者も見受けられはしたが、多くは静観しており特に大きな混乱へは発展していない様にも見える。だからといって企業としては何もしなくて良いのではなく、やはりそこはユーザ一人一人を見据えた対応をとっていくべきであると考える。日曜深夜になってやっとトップに断片的な情報が載りだしたが、それはもうシステム全体が正常化に向けた軌道に乗ってからの対応という見方が出来てしまう。

これでは後からいくらでも言い訳が出来てしまうのだ。ユーザが欲しいのは企業側の言い訳ではなく、今当に起きていることの事実が何であるかを知りたいのだ。その先を企業に教えて貰いたいのではない。事実を個々が判断し、先に自分の周りにある影響範囲へ手を打ちたいのだ。後出しで出されてもそれはもう手遅れなことも多い。幸い、自分のところでは被害は全くのゼロであるが、DTIにおいては全ユーザに対し真摯な対応をとって貰いたいと望んでやまない。
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このページは、たくが2010年9月 6日 05:51に書いた覚え書きです。

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