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ニコンDfの立ち位置と企業の政治的都合を読み解く

2日ほど前に少し触れたデジカメ Watchさんの『ニコンDf誕生に迫る』という記事を読んで思ったことなどを熟々と。先ず、ニコンDf自体のコンセプト、それもモデルとしてのアイデンティティというべきスタンスが、

「ダイヤル式の操作で、かつフラッグシップ機の画質を持ったデジタル一眼レフカメラ」

と明言されていることはもの凄く重要なことだと思います。何故、この1文が重要なのかと言うと、ある意味現在のニコンのカメラにおけるフラッグシップ機であるD4の自己否定になりかねない危険が潜んでいるとも言えそうなほどの内容とも受け取れるからです。言い換えてしまえば、『D4の写り、クオリティはそのままに、ガワをスリムアップして要らない機能も無くして使いやすくしました』というのと何ら変わらないことをサラッと言ってしまっている訳です。さぁ大変です。そのことは、

現在のニコンのデジタル一眼レフは、エントリー機からプロ向けのフラッグシップ機まで整然と並んだ商品構成になっていますが、その本流とは一致しない別の位置にあるという考え方ですね。

というコメントを見ても判る通り企業が自らDfの様な異端児を、それも企業が計画的に構築してきた自社の製品ラインを崩しかねないモデルを大々的に前面に出すのはかなりのリスクとなるのではないでしょうか。と、そこで

フェローである後藤哲朗を中心とした後藤研究室

の登場です。あくまでも企業の製品計画ではなく、カリスマ後藤フェローの元…というポジションを与えることにより企業自体は企業としての姿勢を崩さず、尚かつ成功or失敗に関わらず最大限の恩恵と最小限のリスクを両立している様に受け取れます。

このあたりは、2009年の10月頃には出来上がっていたとされる『初期のアイデアスケッチ』と実際に発売されたDfそのものの差異を見ると何となく見えてくるのではないかと思えるのです。ということで早速、先のスケッチと製品の比較から。

20131215_df.jpg

初期のデザインから大きく変更が入っているのが大凡3点。一つ目はペンタ部からファインダー部にかけての造形。カメラ自体のデザインに大きく影響を及ぼす象徴的な部位であることからこの部分の変更はかなり大きな理由があったことが伺えます。二つ目は軍艦上部のモードダイヤル&液晶小窓部&サブダイヤル。この辺りは操作性&視認性の観点から考えれば妥当な変更に見えなくもないです。そして三つ目はマウント部がボディから大きく全面に迫り出している点。このあたりはフルサイズ機でファインダー視野100%、等の都合から背面に太らせるよりマウントを高くすることで逃げたという技術的理由にありそうです。

 

今回読み解いていきたいのは一つ目の変更部分、即ちペンタ部が何故、これほどまで変わってしまったのか…という部分です。当初のスケッチの件で、

結果的にはこのときの考えが、8割方反映されていると言ってよいと思います。

と言っているのですから残り2割の変更部分はほとんどこのカメラとしての印象を左右するペンタ部分なのではないかと思うのです。では何故、このペンタ部が当初のデザインからFM/FE系を彷彿させる形状へ変わってしまったのでしょうか。以降はこの点について考察してみようと思います。

製品にかける想い 〜Df開発者インタビュー〜」に後藤フェローへのインタビューが掲載されていますが、この中で、

こういうものは、商品として、会社のなかのルーチンに載せるのは非常に難しい。何年も計画が先まで決まっているので、一機種入れるのは、とっても難しい。
タイミングとして、これから「D4」をやるし、「D800」もまだない時期で、「Nikon1」をこれからやる時期。2009年から2010年にまたがっているんですが。
とっても、こんなことをやっている時間は暇はない。馬鹿いうんじゃないと。しかも、後ろ向き(笑)。ノスタルジー、レトロ、こんなものに市場があるとは思えない!といわれまして・・・。

という話が出ていることにヒントがあるように思えます。早い話が先に述べた『企業としての製品ラインナップに異端児を入れる隙間無いよ』に近い反応だったということなのでしょう。まぁそれでも

「映像カンパニー・プレジデントの岡本がこの製品の企画に前向きであった」

という援護射撃はあった様で、企業として前面に立たず後藤研究室を前面とした隠れ蓑にしながらどのように市場に訴求するか…というポイントに落ち着いていったのではないかと思えます。この辺の事情については中の人ではないのであくまでも想像の域を出ませんが、多分に企業としての都合が大きく作用しているように感じる部分でもあります。

仮説ではありますが、初期のデザインのまま市場に出した場合、市場の反応はあくまでも『全く新しい製品ライン(ある意味、D4と競合する…操作系のみ異なる)』として捉えられてしまう危険があったのではないでしょうか。先に述べた近年の『丸っこいエルゴノミックデザイン+軍艦上部の巨大液晶+ゲーム機さながらのコントローラー然としたコマンドダイヤル』による操作体系を根底から否定してしまう製品ラインが生まれてしまうことにならないのだろうか…。

当然、ニコン社内においても一貫した製品ライン群を否定するような製品は出すわけにはいかない…。でもトップ以下、このようなコンセプトの製品は是が非でも出してみたい…。当に山嵐のジレンマだったのではないかと思えます。そこで考えた結果、過去のフィルム機へのオマージュ、名機と呼ばれたフィルム機のボディ達をなぞるデザインを前面に出すこと…によりクラシカルという大義名分を製品に与え、過去のフィルム機に通じる造形を隠れ蓑とすることで他の製品群が影響を受けない様に工夫したのではないかと思います。

Dfを手にした時どうしても一瞬、それも微妙なアンバランスというか、不整合さを感じるのはこのペンタ部なんです。過去のモデルをなぞったにしてはこの造形では大きすぎるのです。恐らく、初期のフラットスクエアなデザインだと(FAしかり、F4しかり…)その大きさにも全体としてのバランスが取れているのではないかと思うのです。個人的にはF4s(自身が保有するフィルム機として一番最後のモデル)に通じる造形というものがやはりニコンとしてクラシカル機的には最終の造形だと思い込んでいるというのもありますが。

ということで企業の都合と表現したかったのはこの自社製品ライン群の全否定を避けるためのクラシック路線という手法だったのではないかと思うのです。クラシック路線を謳うにはやはり、過去のフィルム機モデルの造形をなぞる必要があったのでしょう。操作系のみクラシカル、では訴求出来ないという判断があったのかもしれません。フィルム機からのユーザであれば十分に軍艦部のダイヤルとその操作系で訴求できたのかもしれませんが、デジカメから写真の世界に入った人には過去のモデル、フィルム機としての造形自体が必要だと判断されたのかもしれません。

当初は私1人で考えたのですが、いろいろな方面からの助言などで、ここはこうした方が良いといった意見を反映し、今の形に収束しました。

恐らくは、会社側から世に出す上では『こうしてくれ』という要求があったよ、というのがこのコメントの隠れた部分なんだろうなぁと思うのです。なんにせよ、Dfの滑り出しは順調です。そして継続的にファンが続いてくれると良いなと思わざるを得ません。さらにDf2と続き、やはり初期のデザインまで、過去のフィルム機に縛られないオリジナルとしてのDfに繋がって欲しいと思っています。

 

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このページは、たくが2013年12月15日 16:14に書いた覚え書きです。

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