あまり政治的なことは書かないようにしているつもりなのだが、政治というよりは行政のあり方と民意、という視点でみるべきニュースだと思うので敢えて記録しておこうと思う。
いわゆる「大阪都構想」の賛否を問う住民投票は17日に投票が行われ、開票の結果、「反対」が「賛成」 を僅かに上回って多数となりました。これによって、大阪市の橋下市長が掲げ5年にわたり議論が行われてきた「大阪都構想」は実現せず、今の大阪市がそのま ま存続することになりました。
「大阪都構想」の賛否を問う住民投票の開票結果です。
▽「反対」70万5585票
▽「賛成」69万4844票
「反対」が「賛成」を1万票余り、得票率にして0.8ポイント上回り、多数となりました。
「大阪都構想」の賛否を問う住民投票は、大阪市の有権者およそ211万人を対象に行われたもので、先月27日に告示されました。そして、「大阪府と大阪市の二重行政を解消すべきだ」として「賛成」を呼びかける大阪市の橋下市長が代表を務める大阪維新の会と、「コストもかかり、住民サービスも今より低下する」な どとして「反対」を呼びかける自民・公明・共産・民主の各党の間などで、激しい論戦が繰り広げられてきました。
その結果、「今の大阪市を存続させるべきだ」などとして、大阪維新の会の支持層以外には「都構想」への賛同は大きく広がらず、「反対」が「賛成」を僅かに上回り、多数となりました。
投票結果は法的拘束力を持ち、これによって、今の大阪市を廃止して5つの特別区を設ける「大阪都構想」は実現せず、大阪市がそのまま存続することになりました。
ということで結果は『反対派』が僅差で上回り、改革は無いモノとなってしまったのですが、ハッキリ言って大阪府は今後、彼の夕張市の様に財政再建団体へ転げ落ちるのは待った無しであることがほぼ確定したのではないかと思います。
元々、この大阪都構想というのは、財政破綻を回避するための行政区ガラガラポンであり、法の裏をかいくぐる裏技的なものであって『都、区』といった行政区名の変更を目的としていません。膨大な負債を抱える大阪市を解体することで箱モノや大型の事業(公共交通機関やライフライン、福祉サービスなど)は大阪府へ、二重行政のうち大阪府でまとめて行えるものは府へ、細かい行政区単位でしか行えないものは新しく置く区へと、それぞれ適した部署にて実施することを目指していた様です。これにより無駄に支払っていたお金をなるべく削っていき、大阪府としての財政健全化を目指していこうというのが狙いでした。
しかし、『大阪都』という言葉が先走ってしまいあたかも『東京都』の様に『都』になるんだ、という印象ばかりが流され、本来の改革の肝の部分が全く報道されないばかりか説明されない状態になっていたものと感じられます。仮に『賛成多数』であっても『大阪府』のまま『区』とすることも可能ですし、名前は後から協議すればよいことになっていたわけです。
しかし実際にはこの様なある意味『今はどうでも良い』ハズのモノばかりが『反対派』により悪のように触れ回られ、あたかも『都』の一文字を取り上げて『東京都』と並べて比較するがのごとく扱われてしまったのは大きな失敗だったのではないかと思います。正確には『借金まみれの行政区(政令指定都市ではあるが)』の大物借金を府に一旦預け、行政区そのものを無かったことにして借金をチャラ、新しく特別区を設けて予算を分配、地域ごとのサービスに充てるというプロセスをきちんと説明出来なかったのが敗因であると思います。
それ故、特に大阪市の南部や高齢者層に『反対』が多くなる結果となってしまっています。
敢えて明確に記載はしませんが、東京の23区で説明すると青い所が山の手、赤い所が足立、北といった位置づけに近いとだけ表現しておきます。ゲスな表現をすれば、税金を払わず福祉だけはきっちり受けている層が多いところが反対の多い地域、そして70歳以上の層(リタイアし年金で暮らす)が反対にに回った…ということになります。
大阪市民の66.83%もの方が投票したにも拘わらず、70歳以上の層の意見だけで決まってしまったということは20代〜60代までの投票数が圧倒的に足りてなかったことを意味しそうです。しかしそのツケは20代〜60代の『反対』に入れた人達と『投票しなかった』人達が責任をもって先の『今現在甘い汁だけを吸ってる層』の面倒を『増える税金を払う』ことで看る、ということを意味します。
もう後悔しても取り返しがつきません。大阪府自体は2011年に既に起債許可団体に落ち、2018年にも財政健全化団体になってしまう可能性が指摘されていたりするのですが、そのまま財政再建団体にまで落ちてしまう可能性がものすごく高いワケです。財政再建団体に落ちてしまうと夕張市の様に税金は上がり住民サービスは廃止され、徹底的な総務省のチェックが入る様になり事実上行政府として自立した起債、執行が不可能になります。必然、住民サービスは極度に低下し、その不便を受けるのは市民ということになります。
さてここで先に大阪市の事業を府に付け替える秘策…と述べましたが、起債許可団体に落ちてしまい財政再建団体に落ちるまでそれほど猶予の無い府にどのようなリカバリーができるのかも押さえておく必要がありそうです。
ズバリ、それは大物事業の民営化です。先の『大阪都構想』においてもこの事業の民営化は別枠で練られており、市営地下鉄や市営バスにおける常識を逸した人件費の浪費や負担を行政から切り離し民営化することで大阪府や大阪市の負担を無くし、節約した部分で負債の返済に充てていくというものの様です。恐らくは、民営化してしまえば公務員特権と呼ばれる異常なまでの人件費などは民間レベルまで下げざるを得ず、また人員数も適正化しない限り赤字となるであろうことから人員整理も行われることが期待できます。大阪市のままでは諸々の事情や抵抗で出来なかったことを変革のドサクサに紛れて人員を整理する…というのが一番大きな目的だった様な気がします。
今まで行政内部に巣くう金食い虫が負債の返済もできなくなるほどカネを食っていたワケで、このカネ食い虫を追い出し、借金を返して行こうという計画なのでありました。しかしこれだけで足りるワケでもなく、『都(名前は府でも良い)、特別区』制を築くことで周囲の健全な自治体を『都』の中に取り込み、税収を『都』の中で均してしまおう、という点が見て取れます。
当然、大阪市の周囲の自治体にとっては迷惑な話です。しかし今回の住民投票はあくまでも『大阪市』の解体についてなので府内の他の自治体は何も言うことが出来ません。実はこのあたりのお金の動き、そういったものがまだ具体的には詰め切れていないのではないか?というのが傍から見ていての感想です。恐らくはそのせいで市民への説明も上手くいかなかったのではないだろうか、歯切れが悪かったのではないだろうか、と思えてしまいます。
そして現在24区に別れている大阪市内の行政区を5区に整理することで行政事務を効率化する案でもありましたが、これは先の平成の大合併に見られた市町村合併と同様の効果を期待するものでした。そしてその効率化により生まれるであろう2000億円とも言われる額が大阪府へ入ることにより府の財政も健全化へ振れるということの様ですが、この数字は本来区の持っている数字であり府に取られるのは納得いかない、というアレルギーが多く見られ、このあたりの説明もキチンとされなかったことも大きな敗因になっているのではないでしょうか。
何にせよとにかく時間が足りなかった。何をするにも手遅れだった感が否めません。しかし何もしないで財政再建団体に落ちてしまうのであれば、可能性に賭けて一発逆転を狙うより他は無かったのかもしれません。この先どうなれ大阪市民が選んだ道です。外野がどうこう言うことではありませんが、一途の望みすら消えてしまった大阪市民に対しては『残念だったね』という見方しか出来ないのが正直なところなのでありました。
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