はじめに
昨日(日本時間6月9日(木))早朝…というか深夜に中国の軍艦(軍隊の艦船というのがポイント)が日本の領土である尖閣諸島の接続水域に侵入したというニュースが流れました。各マスコミもそれなりに報道した様なのですが、その背景まで含めわかりやすく報道しているところがあまり無い様なので簡単に纏めておきます。
尖閣諸島と領土問題
現在、国際法上は『尖閣諸島』は日本の領土となっており、中国を除く世界においては日本の領土であるという認識で一致しています。よってこの尖閣諸島付近において、『領土問題(所有権がどちらにあるかなど)』は存在しない、というのが世界的な認識であり、日本の主張でもあります。
しかし、中国側は明確に中国自国の領土であると主張しており、こともあろうに中国の国内法においても尖閣を中国領土として明記するなど、明らかに他国の領土を乗っ取る気満々だったりするわけです。
そういった経緯もあって、中国側からしてみれば「自国の領海にロシアの艦船と日本の艦船が入るので自国(中国)の艦船が警戒行動を起こすのは当然である」…というロジックなのでありました。もちろん、こんな勝手な道理は世界では通用するハズも無く、世界中に一発触発のニュースとして騒がれることで『あたかも』そこに領土問題が『存在するかの様に』印象づけるためのパフォーマンスであるとの見方が有力なのであります。あわよくば、日本(及びセットの米軍)から敵対行動があれば1隻を沈められようとも戦争の口実になるという思惑もあるようなのですが。
ロシア海軍艦船の動き
さて、当初は中国軍艦とセットで「すわっ!」と語られてしまったロシア艦隊でありますが、防衛関係者や外交関係者によれば早い段階からロシア艦隊と中国軍艦は無関係…という観測で一致していたとのこと。中共という言葉で一緒くたに語られてしまうことも多かった(20世紀後半の冷戦時代のイメージを引きずっている資本主義の敵みたいな)2つの超大国ではありますが、ソビエト連邦崩壊後のロシアは共産圏というよりはどちらかというとマフィア国といった趣の方が強く、中国ともかなり距離を取ったポジションにあると考えられます。過去のソ連時代からの繋がりで軍の設備や兵器は同じだったりロシアの劣化コピーだったりするので似た者的な印象が残っているので、つい両国の軍もセットで…と思ってしまいますが実はあまり仲がよろしくなかったりする(近年では中露国境戦争もやってるし)のであります。
そんなワケで日米の軍、外交関係の中でも中露の連携という考えはほとんど無く、また次の理由から中露連携という見方は否定されていたのであります。その根拠となるポイントは『ロシア側にとって尖閣は領土主張の範囲外である』ということ。対日本として北方領土の課題はあるものの、尖閣は明らかにロシアとは『全く関係無いところ』なのであります。
では何故、ロシア艦隊が尖閣接続水域を航行したのか?…ですが、実は今も昔もなし崩し的に頻繁にロシア艦はここを通っていたという事実があるのです。えっ?っと思いますが、単にこれまで報道されてこなかった、問題視されてこなかっただけなのであります。早い話がそれを知らなかった(知らされてなかった)のは日本国民だけであり、今の政府も、過去の日本国政府もそれを公表してきませんでした。そんなワケで海上自衛隊と米軍太平洋第七艦隊はいつもどおりの対応だったのです。衛星やレーダー、警戒機、潜水艦などで後ろをつけて金魚の糞みたいに追掛けて問題がないことを確認する…それだけだったのですが。
産経ニュース より
とまぁこれだけだと推測の域を出ないのでもう一つ、決定的な事実。
▼ 南シナ海演習後か=ウラジオストク帰航中-ロシア軍艦:時事ドットコム
今回、尖閣接続水域を通っちゃったロシア艦3隻は、『拡大東南アジア諸国連合(ASEAN)国防相会議(ADMMプラス)』が南シナ海で主催した合同演習の帰りだったのであります。日米軍関係もこのことは最初から知っていたワケで、まぁ何時ものお帰りコース…だったのですが、はて、帰りと言うことは…そう、当然のごとく往きもここを通ってたんですね。そしてこのことは何故か公表されていないのであります。というか、今回の演習に限らず、ロシア艦隊は昔から尖閣の接続水域を堂々と通っていた…という事実があるのです。
では何故今まで問題にならなかったのか…と言えば、前述のとおりロシアには『尖閣に対する思惑』が存在しないのでなし崩し的に『近道』を黙認してきた、と。当然、日米関連の監視付きになりますが。まぁそんな理由で日本も外交ルートで一度も抗議することもなく、何時もどおりにロシア艦は「ちょっと通りますよ」的な動きになっちゃったのあります。
ちなみに今回尖閣接続水域を通った3艦は『ウダロイ級の大型対潜艦(駆逐艦)「アドミラル・ビノグラドフ」』と補給艦、そして演習時に入港した際の接岸などに供する『タグボート』だったというのは当初から判明していたので、これだけでも他国の水域に入って何かしよう、という構成では無かったというのも『脅威無し』と判断された理由だったりするのであります。
中国軍艦の動きは誰の命?
さて、問題はここに中国海軍艦が1隻、紛れ混んだことです。これまで中国は尖閣の接続水域に公船を入れてきたことはありますが軍艦は入ったことがありません。そして実はここにも歴史的な経緯というものが隠れていまして、話は第二次大戦終結後の世界秩序再構築まで遡ります。当時、アメリカが『尖閣諸島』の領有権を何処に置くかで最初に打診したのが当時の中国(中華民国)だったわけです。そしてその時の中国(中華民国)は「尖閣は要らない」と回答した(「カイロ会談」での蒋介石とルーズベルトの密談:「アメリカのルーズベルト大統領が中華民国国民政府の蒋介石主席に『日本を敗戦に追いやった後、琉球群島をすべて中華民国(中国)にあげようと思うが、どう思うか』と何度も聞いたのに、蒋介石が断った」)ため、『尖閣は日本領土』と決まったのであります。さらに、日中間での密約として、『両国の軍はここに入らない』ということまで決めていたのでありました。それ故、実は日本も公式にはこの海域へ自衛隊を原則出さないのであります。必ず出て行くのは海上保安庁の船、すなわち公船となります。また同様に中国もこれまでは公船までで軍艦は一切入れてきませんでした。
さてここへ来て一気に他国の軍の侵入が起きてしまったのであります。果たして中国共産党の命によるものなのか、はたまた中国海軍の独断なのか…ここが見極めのポイントかもしれません。歴史的に中国軍は地上部隊は近年までも戦争を経験してきており、その実力は世界の認めるところ(多分に人数なんだけど)ではありますが、それに比較して空軍、海軍は近代化が遅れ戦力としてかなり寂しい状態が長く続いてきたというのがあります。しかし21世紀に入り、空軍、海軍の近代化にやっきになった中国はかなり空軍や海軍を優遇したと聞きます。これで軍の内部が思い上がったのかもしれない…という見方も出てきてしまうのです。
中国共産党としても、軍をコントロールできていないことが明らかになることは避けなければならず、仕方なしに先の『自国の領域で警戒して何が悪い?』という理論をぶちまけざるを得なくなります。もうこの辺の話になると中国内政のことになってしまうので、全てが想像の域をでなくなっちゃうので事の成り行きを見守るしか手立てがなさそうです。
接続水域って…
ニュースで頻繁に登場する尖閣『接続水域』という言葉。これ、もうちょっと別の言葉に変えた方が良いと思うのは自分だけでしょうか?ちょっと前に中国が『防空識別圏』を勝手に設定し…というニュースで流れた通り、空の分野では『防空識別圏』、すなわちこの辺が最終防衛ライン(空域)でここを超えると撃ち墜とすからね、的な確固たる意志が見える言葉なのに海だと水域って…。なので『領海防衛識別水域』ぐらい確固たる意志の見える(伝わる)表現が欲しいと思うのでありました。「これ以上入ってくると沈めるぞ!」的な。
日本国始まって以来、初の『不測の事態に備えよ』
最後にもう一つ重要なことを。今回の中国軍艦の接続水域侵入に関して、日本政府、総理大臣の対応は相当早いものでありました。中国軍艦が尖閣接続水域に侵入したのが9日午前0時50分ごろ、首相官邸に連絡が入ったのがほぼ午前1時。この時、安倍総理は即座に(1)不測の事態に備え、関係省庁が緊密に連携して対処、(2)米国をはじめ関係諸国と連携を図る、(3)警戒監視に全力を尽くす-の3点を指示した…とされています。
これから遡ること数時間前、前夜の21時ころからロシア艦の動きの監視がひかれ、総理は私邸ではなく官邸に詰めていたとあります。恐らく、このロシア艦に呼応するように見えた中国艦の動向も逐次報告を受けていたに違いありません。さらに、アメリカ側とも情報を共有し、恐らく中国艦が入ってくることは想定されていたのかもしれません。
先に書いたとおり、これまで中国は公船を入れども軍艦は動かしてきませんでした。しかし今回は軍艦でした。他国の軍が勝手に侵入したとあっては主権侵害の確たるものとなります。文字通り、『侵略』を受けたことになるわけです。この時、日本の取る行動は『防衛行動』の1点しかありません。それ故の総理の『有事に備えよ』であったのであります。『有事に備えよ』とは即ち、(敵対行動を受けたら)防衛戦争が始まるから準備しろ、なのであります。
これまで歴代の日本国政府も総理大臣も過去1度もこの『有事警戒』を発したことはありませんでした。それだけ今回の事は歴史的大事件だったのであります。頭の中がお花畑になってる人達の中には「たかが船が1隻入ったぐらいで…」と言う人も多いかとは思いますが、世界秩序という世界共通の認識の中では国体維持、主権防衛は最優先事項であり、戦争をするに十分すぎる正当事由になるということを知っておいた方が良いのではないかと思います。
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